ぎゃらりー浜つばき

建て主は私が小学生の時の担任の先生です。
その先生が退職されたのを機に、二十数年ぶりに再会したことから「ぎゃらりー浜つばき」の設計計画が始まりました。

ギャラリーのある新潟市越前浜は、古い民家や土蔵が多く残る魅力的な集落です。
高齢化で空き家が増える中、近年若い芸術家達が、創作活動の場を求め集落の民家に移り住むようになりました。数年前より越前浜を含む周辺地区内の工房、古民家等を使い、芸術家たちの作品展を同時開催する“浜メグリ”が開催されています。
期間中は地図を見ながらのんびりと、迷路のような集落内の展示会場を巡ることができます。

建主である先生は、退職後「子供達に囲まれていた日々が懐かしく、少し寂しい。」と感じていたそうです。そんな中、自宅母屋を“浜メグリ”の展示会場として開放したことをきっかけに「色々な人が集える場を作りたい。」と夢見るようになったと言います。

「ぎゃらりー浜つばき」は、昭和21年竣工の真壁造(しんかべづくり)の小屋蔵を改修してつくられました。
小屋組みは地松を使ったダイナミックな造りで、ご主人のお祖父様が戦後の物のない時代に材料をかき集めて建てたという、大変貴重で思い出深い建物です。
外観内観共に魅力的で私も一目惚れし、趣味の空間として改装する話となりました。
真壁作りの佇まいが大変良い雰囲気だった為、外観は出来る限りそのまま残しています。

1階はくつろぎの場、2階はギャラリーです。
1階にはご主人の希望により薪ストーブを設置し、1階からでも2階の梁(はり)が見えるように、新たに吹抜を設けました。
こうすることで、薄暗かった1階にも光が届くようになりました。
また「ごろっと休める場所が欲しい。」という要望から畳スペースをつくり、小上がりとして天井高さを押えることで空間の変化を考えました。

2階の小屋組みは迫力があり、当時の職人さんの技術の高さを感じます。
梁はこのまま残すことにこだわり、チリを掃っただけで削ることも磨くこともしていません。
当時の棟梁(とうりょう)も梁材も、まさか年月が経ってこれだけたくさんの人に見られることになるとは、思ってもみなかったことでしょう。
年月をかけてじんわりと飴色になった梁は、生まれ変わったように生き生きとして見えます。

吹抜の手摺格子は、古い母屋で使われていた建具に組み込まれていたものです。
この蔵の中に保管してあったものを再利用しました。
スリガラス越しに明かりの透ける様が本当に美しく、繊細な組子が際立ちます。

現在、様々な作家さんの個展の場として2階を貸出し、不定期でチェロなどのミニコンサートなども開催しています。

ギャラリーの名前「ぎゃらりー浜つばき」は建主様に命名して頂きました。

~建主様より~

越前浜地域にはたくさんのつばきが自生しています。当ギャラリーの庭にも数本あり、日本海の強風から家を守ってくれているようです。このつばきから生きる力をもらい、ギャラリーで楽しく余生を送ろうという思いから「浜つばき」と命名しました。

■建物概要

□所在地
新潟県新潟市
□建築面積
53.69㎡
□延床面積
87.26㎡(26.34坪)
□1階床面積
50.00㎡(15.10坪)
□2階床面積
37.26㎡(11.24坪)
□構造・規模
木造2階建て小屋蔵をカフェ+ギャラリーに改装
□外壁仕上
漆喰塗、杉板貼※既存仕上げを塗替、補修
□内壁仕上
EP塗、珪藻土塗、タイル貼
□床仕上
杉フローリング貼、畳敷、タイル敷
□天井仕上
杉板貼、EP塗
□設計
小疇友子
□施工
株式会社重川材木店
□撮影
畑 拓

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